黒澤酒造 杜氏
黒澤 洋平
Yohei Kurosawa
骨太な生酛を包む
この人らしい透明感
13蔵のイケメン枠は不動だと誰もが認めるが、黒澤洋平は「もうそういう年齢でもないので」とクールに切り返す。お酒のイベントをやればおばさま方に囲まれ、TVカメラが寄ってくる。スリムで美しいから、酒類総合研究所の仮装パーティーで、女装したら優勝してしまった過去もある。細身な身体とは裏腹に、洋平の醸す黒澤酒造の酒は基本的に骨太で、その骨格をきれいな透明感が包んでいる。「生酛をしっかり造れば造るほど、透明感が出てきました」という。2年前に麹室を改築し、最新機能を備えた。「酒造りのキモになるところなので、思い切ってやらせてもらいました」。語り口は淡々としているが、杜氏としての強い気持ちがにじむ。40年近く蔵の味を背負ってきた先代から杜氏を引き継いで8年目。「作業に埋もれるのではなく、設計やコンセプトに力を入れていかなければ」と決意を新たにする。「酒蔵って大変だと実感していますが、自分は末っ子なので、背負っているものが兄や他の若葉会のみんなと違うと思います。子どもの頃から人の後ろについていって、前の人が悪さして逃げたのに、自分は逃げ遅れて怒られるみたいな、要領の悪い子です」と笑う。人と争うことが嫌いで、決める立場になることを避けてきた末っ子だったが、杜氏になったからにはそうは言っていられなかった。
父親のような年齢の蔵人を相手に、酒造りを仕切るのはしんどいところもあったが、ぬくぬくと育ってきた自分の社会人としての正念場だと覚悟してやってきた。あと数年我慢すればもっと自分のやりたいことができるようになるだろうと思っていたが、良いタイミングで若いやる気のある蔵人に世代交代が進み、運がよかったと振り返る。「麹づくりも酒造りも、答えが見えないところが面白い。生酛は奥が深くて、そのたび違う出来事が起きます。手間はかかりますが、甘・酸・辛・苦・渋の五味のバランスがよく、飲み飽きしない酒を造るためには欠かせません」という。人に頼られる兄を尊敬しているが、何でも断らずに引き受けてきて自分の仕事を面倒にすることはいただけないとこぼす。だが、その顔は全然怒っていない。「自分も優柔不断だから、断れないし、捨てられないんです」と言う洋平は、社長の孝夫にとっては心強い味方なのだろう。兄弟そろって酒が強くないこともあり、アルコールは軽めだが原酒の味わいを大事にしたものを作った。口当たりが涼やかで、あとからふっくら味わいが広がる。アルコールに弱い人にもいいが、酒飲みの夏酒としても活躍しそうだ。骨太でしかも透明ないい酒を造る男を、イケメンという枠に閉じ込めてはいけない。きもと造りマルトをしみじみ味わいながら、そう思った。
黒澤酒造株式会社
384-0414 長野県南佐久郡佐久穂町穂積1400
TEL 0267-88-2002
FAX 0267-88-2047
http://www.kurosawa.biz/
安政5 年(1858) 創業。八ヶ岳と千曲川の雄大な自然環境の恩恵を生かし全量長野県産米で大吟醸から普通酒まで醸している。自社での酒米栽培、精米も行い地の米、地の水、地の杜氏で名実ともに本来の地酒造りをしている。「kurosawa」ブランドでの海外進出もしている。
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井筒長 精撰
地元で愛される濃醇辛口でキレのある味わい。信州らしいやや濃いめの肴を引き立て呑み飽きのしない定番酒。
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純米酒 生酛造り マルト
◯は太陽、トは登る。日が昇る、日の出の勢いを表す屋号。「甘酸辛苦渋」酒の五味のバランスが良く、燗良し冷良しの万能食中酒。
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生酛黒澤 特別純米酒
生もと造りならではの骨太さと「ひとごこち」を使用したやわらかな口当たりと心地よい酸と深みのある味わいの絶妙なバランス。ぬる燗で楽しんでいただきたい旨口純米酒。