大澤酒造 杜氏
大澤 実
Minoru Osawa
この男、脱いだらすごい
たぶん…いや絶対
明鏡止水は、佐久の酒の中で最初に高級酒市場で名を馳せた、大澤酒造の看板商品だ。言葉の意味は「一点の曇りもないまでに磨き上げられた鏡や、静止して揺るがない水面のような研ぎ澄まされた心境であり、邪念がなく澄み切った心をさします」と説明されている。明鏡止水 垂氷(たるひ)甕口生原酒を飲んでみる。口に含めば透明感が際立つ。まろやかな米の旨味を酸味が追いかけてきて、ゆっくり飲み込むと口から鼻に香りが広がり、深い味わいとなって帰ってくる。長い余韻を静かに味わう。どうすればこんなお酒ができるのだろう? 「当たり前のことを、普通にやっているだけ」と本人は飄々としているが、古屋酒造店の荻原さんに言わせれば「酒の質を追求することに関して、ドがつく変態」だという。平成元年に発売した明鏡止水は、東京の酒販店や飲食店にその味を認められ、今では全国各地に顧客を持つ。「うちは戦時中の物資統制の折りに休業を余儀なくされ、戦後に復活した“復活蔵”だから、東京で勝負するしかなかったんです。当時1升2000円といえば、地元では目の飛び出るような値段でしたが、東京では高くてもおいしい酒を求められました」という。どんな酒が人の心をつかんでいるのか、うちの蔵の酒をどう造るのか、飲んでみるのはもちろん、酒販店や蔵元と話す機会を求めて歩いた。「自分にとってのおいしいお酒は、透明感と生命感があるもの」と大澤は言う。
酒造りは大きく分けると醸して搾るまでの前半の工程と、搾ってから出荷するまでの後半の工程に分かれるという。前半では酵母にストレスをかけずにその力を生かし、後半では素材の力を引き出してできた酒を最高の状態で商品にするべく気を配る。高品質の酒を造り続けるために、工程はできるだけシンプルにして、蔵人の誰もが同じことができるように「再現性」を高めることに力を入れているのだという。「普通酒だろうが大吟醸だろうが、やることは一緒です。自分にとって当たり前のことをやり続ける、イチロー選手だってそうでしょう」。そうやって地道に重ねてきた経験から得たものを惜しまずに与えてくれる彼は、若い造り手たちには有難い存在だという。「昔は杜氏の出身地が違えば、会合で会っても派を超えて話すこともなかったけれど、今は同じ仕事をする先輩後輩として話せるいい時代です。ネットでも様々な情報が共有され、もまれて洗練されるから、全国的に見ても酒の質は高くなっています」と何でもない事のように言うが、自分のしていることに自信のない人にはできるはずがない。穏やかな笑顔からは想像できないほど、ストイックに、熱く、酒に向き合っているのだと思う。一献傾けながらゆっくり脱がせたら、その秘められた部分に触れられるだろうか。
大澤酒造株式会社
384-2206 長野県佐久市茂田井2206
TEL 0267-53-3100
FAX 0267-53-3105
http://osawa-sake.jp/
大澤酒造株式会社は、旧中山道望月宿と芦田宿の間の宿として栄えた茂田井の地で、2代目の大澤市郎右衛門が元禄2年(1689年)より酒造りを始めました。昭和43年、280年ぶりに開封された古伊万里の壺に詰められた創業時の酒は、現存する日本最古の酒として評価されております。米の旨味と透明感を大切に品質向上に努めております。
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明鏡止水 純米吟醸
明鏡止水の定番酒。穏やかな香りと米の旨味が冴えわたる。
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勢起 純米大吟醸
木島平村産の金紋錦を原料に1年以上低温熟成した純米大吟醸酒。上立ち香はほのかに控えめ、透明感のあるきれいな味わいが漂う気品を兼ね揃えている。熟成による枯れた味わいは燗上がりもする逸品。
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信濃のかたりべ
疎植一本植え農法による低農薬低化学肥料米(ひとごこち)で醸した純米酒。華やかな香りと米のやさしい旨味を感じられる。長野県原産地呼称管理制度認定酒。