彼がハリー・ポッターに似ているから！言うわけではないが、「SAKU」がそう簡単に世界ブランドになる魔法はなどない。今回SAKU13のプロモーション大作戦の陣頭指揮を執る土屋は「地酒は嗜好品だから造りに注力して高品質なものを生産するのは大前提。その上でお客さんに手に取ってもらうために何ができるのかを考えています」という。かつて地元が中心だった酒の市場も、今や全国や世界を視野に入れた競争にさらされている。買い手は、蔵の規模や資本力に関係なく、貪欲に付加価値を求める。若い頃には「がんばってるね」と応援してもらえたけれど、中堅になった今は実力勝負で生き残る道しかない。SAKU13も“ユニークな試み”として認知されてきた。そこで満足するのではなく、中身はもちろん、コンセプトやデザインを刷新したり、各蔵各人へフォーカスしたりと、その先を見据えた展開をしていく段階だと、土屋ほか現在のSAKU13執行部は考えている。
土屋さんはおしゃれですね。ユニクロを着て、こんなにきまる人はそういないと思いますよ」というのは、唎き酒チャンピオンにして信州の酒PR大使の由井志織さん。彼女自身がおしゃれの上級者だからその言葉には説得力がある。飾るわけではないけれど、自分らしく。己を表現する手段のひとつとして、土屋のスタイルが貫かれているのだ。
そんな彼の土屋酒造店には、他社に先駆けた取り組みがある。吟醸酒の市販化や、あま酒の製造の他に、地元の契約農家と酒米を農薬無散布にて栽培し、いわゆるドメーヌ方式で醸してきた「茜さす」という酒もそのひとつ。これは土屋自身が酒造りに誇りを持って向き合うきっかけになった酒だ。「ワイン醸造でぶどうを育てる土地の性質が大きな差を生むように、酒ではやっぱりどういう田んぼで米を育てるかがキモになると思うんです」。土屋は地元の特Ａがつく田んぼの中でもさらに優れた場所での契約を目指してきた。ブランド米を育てる五郎兵衛新田で収穫したものを「テロワール五郎兵衛」として際立たせる。口に含めば米のふくよかな味わいに満たされ、飲み込めば甘さと香りがじんわりと広がる、グラマラスな酒だと思う。「いい稲作とうちの酒質をジョイントして、酒造りだけでなく地域の農業にも好循環をもたらすことができたらいいと思うし、そう実現していくことこそ自分の仕事」と力を込めて話す
目指しているのは「持続可能な酒造り」。農家とタッグを組み、蔵人と経営者がチーム一丸となって酒を醸す。「天才は才能によって大ヒットを生むのでしょうけど、自分は凡人だから、みんなで力を合わせて、細くても長く続けられるように、負けない試合をしていかないと。いいものを継続的に造ることはそんなに簡単じゃないから」という。この歳になってようやく両親が必死に守ってきた家業の意味が身に沁みるようになった。熱く激しくはガラじゃないから、緻密に冷静に、だけど少し青臭く。「嗜好品で勝負するんだから、少し青臭いくらいのほうがおもしろいでしょう」と、眼鏡の奥の目がいたずらっぽく光る。徹底したリアリストだけど、洒落っ気や茶目っ気、夢もあるロマンチスト。黄金色に波打つ田んぼに立って、彼はこれからどんな物語を紡いでいくのだろう。
株式会社土屋酒造店
385-0051 長野県佐久市大字中込1914-2
TEL 0267-62-0113
FAX 0267-62-6413
http://www.kamenoumi.sakura.ne.jp/
明治33年創業。信州佐久において、千曲川伏流水を用い手造りで醸し、特に昭和40年代、県下先駆けて発売した吟醸酒、「亀の海吟醸」は伝承の造りを継承。関東信越国税局首席の栄誉、全国金賞、インターナショナルワインチャレンジトロフィーなど数々の受賞歴を誇る。近年では佐久市内で農薬に頼らない酒米作りにチャレンジした「茜さす」も人気。
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亀の海 秘蔵大吟醸 袋しずく中汲み
長野県下、先駆けて吟醸酒を発売して以来、1年も途切れることなく、伝承の吟醸造りを継承する逸品。兵庫産「山田錦」で醸し、品評会向け秘蔵酒。馥郁たる香りと、芸術的なまろやかな味わいが特徴。
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亀の海 純米大吟醸
長野県産「美山錦」を49％まで精米して醸す。デリシャスリンゴのような果実を思わせるフルーティな香りと上品で軽快な味わい。香味のバランスに優れ、多様な料理とも合わせやすい。
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茜さす 純米大吟醸
佐久市のブランド米産地「浅科五郎兵衛新田」で、農薬を無散布にて契約栽培した酒米で醸す。肥沃な粘土質土壌から収穫される良質な米の中でも、さらに選抜した最良部分で仕込む純米大吟醸。芳しい香りとふくよかな旨味のある味わい。